メキシコ モンテレイで食べて遊んで働いて

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1057: 物語ずきの物語。『はてしない物語(1982 岩波書店)』

数少ない私の海外製軽での不便の一つが

一般に普及してこれだけ時間が経つというのに

未だに慣れない電子書籍や漫画の類。

同じ内容を読んでも手触りなのか見た目なのか

わけもなく電子版は薄っぺらに感じてしまったり、

携帯で読んでいる時なんかは画面が小さい分

書籍版よりも改行が多く集中力が散ってしまって

なんだか本の内容に没頭できないのも苦手。

まだまだ日本語書籍が手に入り辛い外国暮らしで

すぐに読みたいような本があるのだから

折れるか慣れるかしないとなと思ってはいても

まだまだどうもその道は険しそう。

 

そんな私でも最近その内容の面白さに

苦もなく読み切れたのが『せんせいのお人形』

という漫画アプリで無料公開されている

藤のようさんの作品。

かなり疲れが溜まり限界を迎えていた頃に読み

とっても元気を出させてくれた、

大変な生活の中から面白いことを探せる視野

を与えてくれるような素敵な作品。

 

大筋は映画『マイフェアレディ』。

作品は学問や教養を身につける楽しさや

文学に対する愛情に溢れていて、

柔らかい雰囲気も合わせてとても心地よく読める。

主人公の女の子が人生を楽しんでいるのを通して

好奇心次第でこんなに人生は楽しいんだな、

と思い出させてもらえる力があるところも素敵。

加えてとてもいいなと思ったのは

作品にたくさんの参考文献が付いていたこと。
作中で気になったことをより知るための

知識の扉を共有してくれるところが

読者の好奇心をも大切にしてくれているようで

読後とても嬉しく感じたことの一つ。

すでに一度は無料で読みきったけれど、

日本に帰った際には書籍版を購入しようと

読み終わった瞬間に思った作品。

 

さて、作品中には数冊の本が登場するのだけれど、

その中に大好きな大好きなファンタジーの巨匠

ミヒャエル・エンデの作品を発見。

嬉しくなると同時に、

そういえば近頃いわゆる物語って読んでないな、

と突然気がつく。

 

読書自体は文字が読めるようになってから今まで

ほぼいつの時代も絶えない趣味としてきた。

けれど近頃好んで手に取っているのは

推理小説や現代小説、エッセイに学術書なんて

どちらかというと地に足のついたものばかり。

それに比べて児童文学を読んでいた頃には

ドラゴンに怪物、妖精に宝探しの旅と

私は殆どファンタジー漬けじゃあなかったっけ。

いつも読んでいたエミリー・ロッダ

ラルフ・イーザウも大好きだし

日本人で言えば斉藤洋作品の虜だった。

大人向けのファンタジー物語が少ないからなのか、

いつからあんなに好きだったものが

生活からなくなってしまっていたのだろうと

気がついてしまうと寂しく思う。

 

そして思ったついでにファンタジー

読みたくて読みたくて仕方がなくなって

日本からえっちら運んできた秘蔵の本から

引き出してきたのがこの一冊。

『せんせいのお人形』にも登場した

ミヒャエル・エンデ

はてしない物語(1982 岩波書店)』。

 

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空想好きの男の子が一冊の本の中に引き込まれ

物語の世界を生き、

失敗と反省を経て自分と向き合い

現実世界に戻ってくるまでのお話。

まさにこの頃流行っているなろう小説の

ものすごーーく出来が良いものがこれ。

主人公よりも幼い頃に読んだ時には

次から次に出てくる変幻自在の物語世界の

へんてこな生き物だとか、自分の頭の中では

到底思いつかないような街や逸話を思い描き

はらはらしたり、どきどきしたり、悲しんだり、

どっぷりと主人公と一緒に体感した不思議な世界。

本当にどうしたらあんな理不尽な生き物たちや

絶妙に美しい街並みを描写できるのだろう。

26歳の今読み返してもその独特すぎる世界に

頁ごとに驚きに目を見張り、

ワクワクする感覚は変わらず。

更には文章がよく理解できる今だからこそわかる

物語の中の物語というメタ的な面白さや

神的な存在である幼心の君の残酷さ、

力を得たものの横暴さは身につまされたり。

昔心を躍らせたものは今でも変わらず素敵で、

それ以上に歳をとったからこそ

物語の中の英雄であり正しいアトレーユではなく

人間であるバスチアンの弱さや間違いから

学ばされることがたくさんあった。

近頃ないほどに没頭して読みきってしまった。

 

それに加えてこの作品を私が愛してやまないのは

その内容がピカイチ面白いという部分は勿論、

読者を物語の世界に没頭させるお膳立てとなる

本の形式がファンタジー作品として完璧なところ。

鼠色の外箱にしまわれた本を引っ張り出すと

目を奪われるのが赤金色で角度によって

テラテラと輝く布張りの重厚な外装。

大きくてずっしりとしていて威厳があって

ほかとは違うその手触りだけでも 

もう気持ちが一歩ファンタジーに踏み入っている。

加えて各章先頭に据えられた荘厳な飾り文字、

燕脂と深緑の二色刷りの文章、

ページの上下のエレガントなデザイン、

見れば見るほどこの本自体が現実感のない代物で、

文字を追う頃には頭が少し浮世離れしてしまい

これのおかげでグッと物語の世界にのめりこめる。

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そして一章を読んで表紙を見返して

その特別感にノックアウトされてしまう。

今では手に取ってもらいやすいよう

上下分冊の文庫版も出ているけれど、

この本だけは重くて大きくて高くても

ハードカバー版を手に取ってほしいと思う。

100%その世界観に浸りながら読まなければ

読後面白かったと思えた人ほど

きっと後悔することになってしまうだろう作品。

 

まさにこの本に出会ってしまったから、

本という個性と浪漫溢れる媒体を介しての

紙の読書が好きなのだなと自覚してきた。

大きさに重さ、色に材質で感じ方が全く変わる。

なるほどいつも同じ姿をした電子書籍とは

なんだか折りが合わないわけ。

私の持っている一冊は

確か中学生の時に購入しようと思ったら

丁度ハードカバー版が絶版している時期で、

けれど諦められなくて、

とにかく古本屋を回って歩いて手に入れた

私が生まれるよりも前に出版されたのに

新品同様で本棚に隠れていた一冊。

これを見つけた時の小躍りするほどの嬉しさは

この本を開くたびに思い出す。

今はアマゾンで簡単に買えるよう。

いい世の中になった。

 

思い入れが強すぎてもう何年も

読む決心のつかなかった作品を

また読めたことが何よりも嬉しい。

見なければいけない現実の問題があるからこそ

余暇くらいは人間のいない

全く違う理の世界に思いを馳せ

なんだかとってもスッキリしたような気分。

 

そんな、自分は活字中毒ではなく

物語中毒だったのだということがわかった

原点回帰な木曜日の夜。