メキシコ モンテレイで食べて遊んで働いて

メキシコって良くも悪くもこういうところ。メキシコを好きになれる観光、レシピ、文化情報を発信。

day 1010: 舌に支配される感覚。『かきバターを神田で(2019)』

私は食べることがとても好き。

だなんて人生でもう何度自覚しただろう。

 

今朝は少し早く会社に行く必要のあった彼氏が
早起きついでにお弁当を作ってくれた。
ベッドまで届くいい香りに脳が覚醒して
気持ちよく起きられたのはいつぶりだろうか。
手のひらよりも大きく1cmは厚みのある牛肉を
玉ねぎ、ピーマン、ジャガイモ、トマトと合わせ
秘伝の調味料を振って焼いたもの。
悔しいけれど肉を焼くことに関しては
彼の方が私よりも何枚も上手。
新しい環境と山程の覚えることを抱えて
毎晩すぐに眠りこけてしまうくらい疲れている中、
私をたたき起こすでもなく
自分の準備のついでに気を使ってくれたことが嬉しい。
朝からとっても機嫌がいい。


愛情をこめて作ったからね、だなんて

真顔で言えてしまうのが本当にメキシコ人。
私はこの料理に入れる愛情に関しては
ずっとあまりピンときていなかったのだけれど、
先週放送のアニメ『理系が恋に落ちたので証明してみた。』
にて、手順通りの調理や調味から
食べる相手の好みにレシピを変更することだとか、
相手の体調や状況に合わせた料理を作る行為が
料理に加える愛情なんだと言っていて、
なんだかすっと腑に落ちたような気分。
自分の無意識の行動や気持ちを言語化できると
この上なくいい気持ちになる。


ところでありがたくお弁当をいただこうと
昼休みにトルティージャの包みを解いた時、
ふわっと立ったとうもろこし粉の香りに
わ~、なんていい香りだろう!
と思った自分にびっくり。
タコスはしょっちゅう食べているけれど
完全に挟んである具が食事の目当てで

皮は腹を満たす係と無感情に口にしていたのに、
そのトルティージャ自体を心の底から
こんなに美味しそうだと思う日が来るなんて。
もうすぐ丸三年のメキシコ生活を経て、
私の体にも大分メキシコが染み付いてきたみたい。
これは本当にびっくりで、
でも少し嬉しくもなった。

 


ところで彼が退職をしてからは
昼休みに意外と自由な時間が出来た。
ここのところ読書からすっかり遠退いていたので
これを機にまた少しインプットの時間に当てる。
とはいえ始めからウンベルト・エーコ

読もうとしたら重量感に耐えられなかったので
(気持ちは読みたいが体と集中力が追いつかない。)
こういう時は手軽にエッセイでリハビリをするとする。


食べるのが好きな私は料理をすることも好きだけれど、
料理アニメに料理漫画、料理ドラマ、料理書籍と
料理エンターテイメントも大好き。
とにかく食べ物のことを考えているのが好き。
というわけで手に取ったのは
平松洋子さんの『かきバターを神田で(2019)』。

https://www.amazon.co.jp/かきバターを神田で-文春文庫-下田-昌克/dp/4167913909


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一時帰国の時にふらっと寄った下北沢の
今一何屋さんなのか分からないVillage Vanguard
いくつか買った料理に関する書籍のうちの一冊。
3.11の日私はこのお店の目の前を歩いていて
山積みの商品に押し潰されて死ぬんだと恐怖した
ある意味思い出のスポット。


閑話休題
文体自体はビビット来なかったけれど、
どこに行って、どんなものを食べて、あるいは作って、
美味しかった、美味しくなかったと
それぞれ2,3ページに綴ったこのエッセイ、
ご飯を前にした平松さんが嬉しそうなので
読んでいる私もなんだかウキウキする。
そして時々自分の記憶に重なる光景があると、
驚くほど鮮明にその味や、食べた場所が蘇る。
すっかり記憶の果てに眠っていた
初めて行った12月の寒い寒いベルリンの駅前で
生まれて初めて食べた小さな屋台の

こぼれ落ちそうなほど巨大で熱々で

パリッとしながらと肉汁の滴るしたソーセージと
冷静になれないくらい美味しかったカレーケチャップ。
食べ物と場所の記憶がとても強く結びついている。
お陰で旅行で訪れた場所やクリスマスマーケット、
他の食事に失敗談、色々なことが思い出せた。
具体的な場所や店名も書いてくれているので、
気になったら実際に足を向けられるのも嬉しいところ。
ラマダンの話を読んで一度断食月イスラム国家へ
訪れてみたいなというのはすぐには叶わぬ夢として、
次に日本に帰ったら家族をどこかに連れて行けるだろうかと
読書を通してまた次の帰国の楽しみが増えている。