あいも変わらず日々ぼっとしている私は
とっても大事な体験談を書くのをど忘れしていた。
11月に閉鎖したてホヤホヤのモンテレイ最大最古の刑務所の
期間限定見学ツアーに参加したのだった。
実はこれ、今週末12月15日までの開催。
その後は取り壊し博物館と公園になってしまうので
早めに書いておこうと思っていたらすっかり1ヶ月経っていた。
まだ滑り込みセーフなので、
興味がある人は今ざっと読んで、今週ぜひ行って欲しい。
距離、日程的に行けないという人は
YouTubeでLuisito Comunicaという人が
先行して清掃途中の内部に潜入した動画があるので
是非それを見てみてほしい。
Así viven en una cárcel para enfermos mentales | Topochico, México - YouTube
行く予定の人ももう行った人も、
彼は一般参加者の入れない部分も公開しているので
絶対に見ないと損になる。
では体験談レポート。
街の中心から車で15分ほど、
メトロのPenitenciaria駅から歩いて5分ほどのこの刑務所は
トポチコ山にあることから通称Penal del Topochico
と呼ばれているけれど、正式名称は
Centro de Prevención y Reinserción Social Topo Chico
本当にその機能を果たしていたのかは別として
直訳すれば社会的な(犯罪の)予防と復帰のための施設。
第二次大戦中の1943年に建造されただけあって
あまりにも酷い老朽化と、
人口の膨れ上がりによる居室不足、
何より刑務所内の治安悪化、
と深刻な問題を3つも抱え実質無法地帯だったため、
建造以来76年経った今ついにその代わりとなる
実に近代的な刑務所がアポダカ市の北に作られた。
囚人たちの移送も終わり、違法物品の回収や清掃も終わり、
これで本当にお役御免となってしまう。
その最後に囚人たちはどれだけ過酷に暮らしていたのか
を市民が体験できるようにと実施されているのがこのツアー。
Pasaporte Nuevo Leonという政府の公式スマホアプリを使えば
予約ができるはずなのだけれど、
機能していないことも多いので
その場合には直接現地で受付をすればOK。
10:00〜16:00までの開催で、
刑務所の入り口で身分証を見せるだけ。
15人集まるごとにグループが組まれて出発。
私たちが訪れた11月初めの週末で、
午前中でも5分も待てば開始できるくらいだったな。
入場が無料なので、結構人が集まってるみたい。
ちなみに未成年には不適切な内容と判断されているため
入場は18歳以上のみ。
門前払いされている人もちらほらなので注意。
何より衛生の問題で床も壁も何もかも
絶対に触ってはいけないと厳命されているので
子供に万が一がないためにも入場できなくて正解だと思う。
オレンジ色の刑務所特製Tシャツを着たガイドさんが
最初から最後まで各グループを先導してくれる。
撮影禁止の入り口まで来ると
スペイン語で簡単な施設の歴史の説明が始まる。
加えて入場前に口をすっぱくして言われるのが、
とにかく運用されていた時期の衛生状態が悪かったため、
いくら徹底的な清掃をしているとはいえど
絶対に施設内のものには許可なく触ってはいけない、ということ。
冒頭に紹介した動画でいかに汚かったかを見ているので、
少しビビッてしまう小心者の私と潔癖気味な同僚。
建物への入場は囚人、刑務官、面会者など
歴史の中で全ての入館者がくぐってきた入り口。
近年は備え付けられていた空港のような荷物検査機を抜けると
まず最初にあるのはコンクリート打ちの中庭。
特に説明はないけれど、
塗料で描かれている線や数字を見ていると
囚人たちの生活の導線やルールが見える気がする。
入場口以外の四方は医務室、薬局、劇場、
それから居住区域に囲まれているのだけれど
どちらを向いても壁面の状態や破れた窓から
既にここでの壮絶な暮らしぶりが見て取れる。
毎週日曜日には面会に訪れた家族とは、
面会室以外にもこの広場で会えていたらしい。
入り口から見て左奥手に見える灰色の建物は女性囚人棟。
ほかの部分に比べて若干新しく見える。
ここ30年間は所内全て常に定員オーバーで
管理が行き届いていなかったため1000回以上の暴動が起き、
刑務官への暴行や殺人事件もよく起こり、
今回の閉鎖を受けての清掃作業が始まってからは
山ほどの銃器や薬物が至る所から出てきているような状況で、
金銭も当然持ち込まれ使用されていた。
そんな中で女囚たちは出所後の生活のためか、
所内で少しはまともに過ごすためなのか、
あるいは檻の中で一緒に暮らす赤ん坊のためなのか、
女性棟を抜け出しての身売りも多くあったとか。
今流行のタクシーと食べ物のデリバリー業者になぞらえて
彼女たちはUBERと呼ばれていたそう。
広場の劇場は100人収容といったところ。
(何せメキシコ人は横に大きいので)
座面は冷たくて硬いコンクリートではあったけれど
背もたれには一応クッションが入っていた。
但しビリビリなのはご愛嬌。
ここで施設に関わる人々のビデオを5分ほど鑑賞。
映像はいいのだけれど音声が悪く、
メキシコ人でも全部は分からなかったと言っていた。
それにしても耳にタコが出来るほど
どんな備品も触るなよといっておきながら、
この時は座席に座るように指示されたのには驚き。
抵抗感があったが結局浅く腰掛けるのがせめてもの抗い。
劇場の脇、広場から延びる通路には
余暇のためのバスケットコートが左手に。
地面に穴などもなく割と整備されている。
何と言っても屋根付きなのが優しい。
右手には長屋のような旧作業場が。
日本の刑務所と同じくかつてはここで
手工芸を行っていたのだけれど
居室不足の影響で全て房として使用することになったのだとか。
大分写真の明度をあげたので見えるかな?
わずかに差し込む太陽光のみで中はほぼ真っ暗闇。
数台の2段ベッドがあるみたいだけれど
実際には何人が布団に寝れていたことか。
左側にはキッチンも併設されているが冷房も勿論冷蔵庫もないので
食材はそこらへんに置きっぱなしにするしかない。
長い夏の間は40度も越えるような湿気と熱気のこの街で
衛生状態がどうだったのかは想像に難くない。
そんな場所で毎日寝泊りしなければいけなかった監獄生活。
またこの区画を過ぎると右手にあるのが運動場。
外部のチームとサッカーなどの交流試合もあったそう。
そしてその向かいが感染者隔離棟。
武器と暴力があふれる監獄内では流血沙汰も想定内だし
無法地帯だといくらでも収監者同士の性交渉が発生するので、
HIV感染者を同じ房に入れておくわけにはいかない。
結核患者もここにいたはず。
清掃が終わった今でも完全立ち入り禁止のここは
ごく狭いスペースに文字通り
本来なら入りきらない人数の収容者が
押し込められて暮らしていたそう。
少し異様な雰囲気がある。
この先にあるのは外の世界と同じような食事どころ。
お酒もあればタコスもある。
当たり前に金銭が流通していた証。
隣にあるのはカトリック教会。
流石にここはきれいに保たれている。
逆に言えばこれ以外はどこを見渡しても
まさか2週間前まで使用されていたなんて思えないほど
廃墟のように崩れ始めている。
道々にはキリストやマリアの象徴が飾られている。
その道を突き当りまで進むと居住区に出る。
有名人もみんなここに収監されていた。
ゲームのポスターが貼られたエントランスを過ぎれば
勿論檻付きのいわゆる牢屋が廊下を挟んで両脇に、
更に頭上にはもう一段、同じ檻が並んでいる。
以前は新聞や広告、 ダンボールの目隠しが折りに張られていた形跡があり
看守が中の様子を把握していたのかはよく分からない。
おのおの思い思いのデコレーションの軌跡が目につく。
既に清掃後の今はさすがに何もいやな匂いはしない。
VIP独房には立ち入れなかった。
最後に訪れたのは彼らの心のよりどころ、
SANTA MUERTEの礼拝堂。
日本で言う死神様のような存在だけれど、
メキシコでは反キリスト的な邪悪なものとして忌避され
悪い人々にとっては崇拝の対象となっている神様的存在。
国内の道路上にもお地蔵様のように祠が時たまあるけれど
軍が見かけると手榴弾で破壊しているので
道路の脇に崩れた聖堂を見つけた時には
たいていSANTA MUERTEだよと教えられる。
門番は2匹のピットブル犬の骸骨。
背骨を通して電気が引かれていて、目が光る仕組みになっている。
政府が当然こんな悪を助長するようなものを作るはずもなく、
中も外も全て囚人たちのお手製。
ビデオで見た限りは中もとても手が込んでいて、
彼らのSANTA MUERTEに対する敬愛が感じられる。
今は中に入ることは出来ないのが少し残念。
この後は面会室を通ってあっという間に建物の外へ。
日本と違って隙間から手を入れ放題。
出口付近の床の赤黒い染みを見て何人かが
ここで誰かが殺されたんじゃないの?とざわざわ。
さすがに汚れを落とさないようなことはないと思うけれど、
ノーとは言い切れないのがメキシコの監獄。
終わってみれば30分くらいのツアーだったかな。
説明はあまりなかったのでスペイン語がわからなくても
触らない、係員の人を写真に写さない、はぐれない
だけ守れていれば十分楽しめると思うし、
あの場所で目で見て鼻を利かせるだけでかなり興味いはず。
最後は今後の跡地の建設予定図。
アウシュビッツのように教訓的なものとして残しておけないものか 。
ちなみに何より監獄周辺の地域が
そんなに治安のよい場所ではないので
隣の市場のアングラ感だとか
(日本人だけで半入らないほうがいいと思う)
道を歩いている人たちの表情がなんだか野良猫のようで
普段暮らしている町と雰囲気が全く違うのを感じると
ああ、ここはメキシコなんだなと身が引き締まり
なんだかしびれる思いがした。
とにかく行くにしろ行かないにしろ、
LUISITO COMUNICAさんのビデオは是非ご一見を。
入場できないトイレやシャワールーム、
隔離施設の中、房の中、VIPルームの中、
果ては宿泊施設も紹介されている。
メキシコという国について、
犯罪について、
悪人について、
刑務所という場所について、
初めて少し考えたひと時。
こんなに書いたのも、写真を載せたのも初めて。
しかし不思議と誰かの役に立っている気分。
そんな今日はワイルドなメキシコレポートでした